価値を求めよ ― ROI と狩野モデルで学ぶ優先順位付けの極意

アジャイル

第 1 章 プロダクトオーナーの最大の役割とは?

  1. 1.1 問いかけからはじめよう
  2. 1.2 本当に大事なのは「価値の最大化」
  3. 1.3 投資家とシェフ、二つの顔
  4. 1.4 誤解されがちな役割
  5. 1.5 本章のまとめ
  6. 2.1 すべては有限である
  7. 2.2 スーツケースの比喩
  8. 2.3 ROI の冷徹さ ― ゲームの世界から
  9. 2.4 プロダクトオーナーの意思決定とは?
  10. 2.5 本章のまとめ
  11. 3.1 優先順位付けの「道具箱」
  12. 3.2 MoSCoW 法 ― シンプルで合意形成しやすい
    1. 旅行の荷造りに例えると
  13. 3.3 WSJF(Weighted Shortest Job First)― 数字で納得感を得る
  14. WSJF における「価値」の数値化方法
  15. CoD(価値)の 3 つの要素
    1. ポイント
    2. Job Size(作業の大きさ)の考え方
    3. 計算例
    4. WSJF のポイントまとめ
  16. 3.4 象限マトリクス ― 直感的に ROI を整理する
    1. 各象限の意味
    2. 実践イメージ
  17. 3.5 WSJF と象限マトリクスの比較
    1. レストランに例えると
  18. 3.6 本章のまとめ
  19. 4.1 ROI では測れないものがある
  20. 4.2 ホテルでの体験から考える
  21. 4.3 ROI の冷徹さとその限界
  22. 4.4 ROI を超える視点 ― 狩野モデル
  23. 4.5 本章のまとめ
  24. 5.1 狩野モデルは 2 つの質問から始まる
  25. 5.2 狩野モデルの 6 分類
    1. M:Mandatory(基本品質)
    2. L:Linear(期待品質)
    3. E:Exciter(魅力品質/Delighter)
    4. I:Indifferent(無関心)
    5. R:Reverse(逆品質)
    6. Q:Questionable(矛盾/無効回答)
  26. 5.3 ホテル事例での回答サンプル
  27. 5.4 ROI と 狩野モデル の対比
  28. 5.5 本章のまとめ
  29. 6.1 ROI だけでは足りない、狩野モデル だけでも足りない
  30. 6.2 ROI が支える短期的な合理性
  31. 6.3 狩野モデル が支える中長期的な差別化
  32. 6.4 ROI と 狩野モデル をどう組み合わせるか?
  33. 6.5 まとめ
  34. 6.6 本章のまとめ
  35. 7.1 これまでの振り返り
  36. 7.2 ROI 的アプローチの意義
  37. 7.3 ROI の限界と 狩野モデルの補完
  38. 7.4 ROI と 狩野モデル ― 両輪で進む
  39. 7.5 明日からの実践ヒント
  40. 7.6 本書のまとめ

1.1 問いかけからはじめよう

もし、あなたがアジャイル開発に関わるチームに属しているなら、この問いかけを一度は聞いたことがあるかもしれません。あるいは「自分ならどう答えるだろう」と思わず考えたのではないでしょうか。

よく出てくる答えはこうです。

  • 「バックログをつくること」
  • 「ユーザーストーリーを書くこと」
  • 「ステークホルダーと調整すること」

どれも確かに大切です。しかし、それがプロダクトオーナーにとって最も大切な役割かと問われれば、実はそうではありません。

1.2 本当に大事なのは「価値の最大化」

プロダクトオーナーの最大の役割とは何か。

それは、プロダクトの価値を最大化することです。

つまり、チームが投じるリソース(時間・お金・人材・労力)に対して、どれだけ大きなリターンを生み出すかを常に考え、判断し続けることです。 これを経営的な言葉で言い換えると、ROI(Return on Investment:投資対効果)の最大化です。

ROI とは「投資したものに対して、どれだけの成果が得られたか」を測る尺度です。 プロダクトオーナーは開発チームやステークホルダーと協力しながら、限られた資源をどこに投資すれば最も効果的かを決定していきます。

1.3 投資家とシェフ、二つの顔

ここで、プロダクトオーナーの役割をイメージしやすいように、二つの比喩を紹介しましょう。

一つ目は「投資家」としての顔です。 投資家は株式や事業にお金を投じるとき、常にリスクとリターンを比較します。少ない投資で大きなリターンを得られる案件にお金を回し、期待値が低ければ投資を控える。この合理的な判断が、プロダクトオーナーの意思決定にも求められます。

二つ目は「シェフ」としての顔です。 シェフは限られた食材を前に、どうすれば一番お客さんに喜ばれる料理を作れるかを考えます。高級な食材を使えば良い料理ができるとは限らず、工夫や組み合わせ次第で価値が大きく変わります。プロダクトオーナーも同じように、与えられたリソースを工夫し、顧客に最大の価値を届ける役割を担っています。

つまり、投資家の合理性と、シェフの創造性。 この二つを同時に持ち合わせているのが、プロダクトオーナーという存在なのです。

1.4 誤解されがちな役割

なぜ「バックログを書くこと」が最重要だと誤解されやすいのでしょうか。 それは、目に見える仕事だからです。ユーザーストーリーを書く、優先度をつける、ステークホルダーと会議をする。これらは確かに日常的に行われるため、「PO の役割=作業管理」と思われがちです。

しかし、バックログを書くことは「手段」であって「目的」ではありません。 真の目的は、バックログを通じて ROI を最大化することなのです。

1.5 本章のまとめ

  • プロダクトオーナーの最大の役割は「プロダクトの価値を最大化すること」
  • それを経営的に表すと「ROI を最大化すること」
  • プロダクトオーナーは「投資家」と「シェフ」、両方の顔を持つ
  • バックログ作成や調整は手段に過ぎず、目的は常に価値の最大化である

👉 ここまでで、「なぜ優先順位付けが大事なのか」という問いへのベースができました。 次章では、ROI と優先順位付けの具体的な関係について掘り下げていきましょう。

第 2 章  ROI と優先順位付け

2.1 すべては有限である

私たちのプロダクト開発は、常に「有限の資源」の中で進められます。 時間、予算、開発メンバーの人数、そして彼らの集中力――。どれも無限ではありません。

だからこそ、すべての要望に応えることはできないのです。 バックログには顧客やステークホルダーからの「やってほしい」が無数に積み上がります。 ですが、実際に開発できるのはそのうちのごく一部。

この「限られた枠の中で、何を選ぶか」という意思決定こそが、ROI 最大化の第一歩になります。

2.2 スーツケースの比喩

ここで、わかりやすい例として 旅行の荷造り を思い浮かべてください。

旅行に持っていきたいものはたくさんあります。 服、カメラ、本、スキンケア用品、おやつ、ガイドブック……。 けれど、スーツケースの容量は限られています。

必ず入れるべきものもあります。

  • パスポート
  • 財布
  • チケット

これらがなければ、そもそも旅行が成り立ちません。

一方で「あると便利だけど無くても困らないもの」もあります。

  • 読みかけの小説
  • ちょっとしたおやつ

もし余裕があれば入れますが、容量が足りなければ我慢します。

そして、「全部入れたい!」と無理に詰め込めばどうなるでしょうか? スーツケースが壊れるか、持ち運びが大変すぎて旅行自体が台無しになるかもしれません。

👉 プロダクトも同じです。 限られたリソースの中で、何を入れて何を入れないかを判断する。 優先順位付けは、まさにこの「荷造り」と同じ行為なのです。

2.3 ROI の冷徹さ ― ゲームの世界から

優先順位を考える上で、ROI という考え方がどれほど強力かを示す例を紹介しましょう。 それは オンラインゲームのバグ放置問題です。

多くのゲームで、明らかにバグがあるのに修正されないことがあります。 「キャラクターが少し変な動きをする」「画面の一部が崩れる」――ユーザーは不便に感じても、運営はそのままにするケースがあります。

なぜか? 👉 ROI が無いからです。

そのバグを修正するには工数がかかります。 しかし直したところで、売上が増えるわけではない。 運営側から見れば「ROI ゼロ」なので後回しにされるのです。

ところが、課金に直結するバグはどうでしょうか。 「ガチャが回せない」「課金アイテムが受け取れない」――。 こうした不具合は即座に修正されます。 なぜなら、これは直接 ROI に影響するからです。

この例が示すのは、ROI が無ければバグですら放置されるという現実です。 冷徹ですが、これは組織としては合理的な判断でもあります。

2.4 プロダクトオーナーの意思決定とは?

旅行のスーツケースの例も、ゲームのバグ放置の例も、本質は同じです。 👉 限られた資源の中で、ROI を最大化するために何を選ぶか。

プロダクトオーナーは「すべてやりたい」という欲望と、「できることには限りがある」という現実の間で意思決定を迫られます。

だからこそ、バックログの優先順位付けは「作業の順番を決めること」以上の意味を持ちます。 それは、プロダクトの未来をどの方向に導くかを決める経営判断でもあるのです。

2.5 本章のまとめ

  • 優先順位付けは、限られた資源の中で ROI を最大化するための行為である
  • スーツケースの比喩 → 「全部は持っていけない。何を優先するかが重要」
  • ゲームのバグの例 → 「ROI が無ければ、直す価値すらない」
  • プロダクトオーナーの意思決定は、単なる順番決めではなく「経営判断」そのものである

👉 次章では、ROI を実際にどう高めるのか、具体的な優先順位付けの手法(MoSCoW、WSJF、象限マトリクス)を解説していきます。

第 3 章  ROI を高める優先順位付け手法

3.1 優先順位付けの「道具箱」

前章では、優先順位付けが ROI 最大化のための経営判断であることを確認しました。 では実際に、どのように優先順位をつければよいのでしょうか?

ここで役立つのが、優先順位付けのための手法=道具箱です。 状況やプロダクトの性質に応じて、適切な道具を選ぶことが、プロダクトオーナーの判断を支えてくれます。

代表的なものとして、ここでは MoSCoW 法、WSJF、象限マトリクス の 3 つを紹介しましょう。

3.2 MoSCoW 法 ― シンプルで合意形成しやすい

MoSCoW 法は、要望や PBI を以下の 4 つに分類する方法です。

  • Must(必須):必ずやらなければならない
  • Should(望ましい):できればやるべき
  • Could(できれば):余裕があればやる
  • Won’t(やらない):今回はやらない

旅行の荷造りに例えると

  • Must → パスポート、財布、航空券
  • Should → ガイドブック、充電器
  • Could → 本、おやつ
  • Won’t → ギター、大きなスピーカー

👉 シンプルで直感的なため、ステークホルダーとの合意形成に強いのが特徴です。 ただし注意点もあります。「Must」が多すぎると、結局優先順位がつかなくなります。 「本当に Must なのか?」を問い直すのが、この手法を使う上でのポイントです。

3.3 WSJF(Weighted Shortest Job First)― 数字で納得感を得る

次に紹介するのが WSJF です。 これは、価値 ÷ コスト でスコアを算出し、スコアの高いものから優先するという考え方です。

WSJF における「価値」の数値化方法

WSJF(Weighted Shortest Job First)の計算は、価値 ÷ コスト という単純な式で行われます。 ここで言う「価値」は、SAFe(Scaled Agile Framework)で提唱されている コストオブディレイ(CoD:Cost of Delay) を用いて数値化します。

CoD(価値)の 3 つの要素

SAFe(Scaled Agile Framework)では、価値= CoD は次の 3 つで評価します:

  1. ユーザービジネス価値
    • 顧客やビジネスにどれだけ貢献するか
    • 例:収益増加、顧客満足度アップ、新規顧客獲得
  2. タイムクリティカル性(緊急度)
    • 遅れることで価値がどれだけ下がるか
    • 例:法規制対応の期限、キャンペーン期間
  3. リスク削減/機会創出
    • 将来のリスクを減らす、あるいは新しい可能性を開くか
    • 例:技術的負債解消、新しい市場テスト

👉 各項目を 1〜10 くらいのスコアで相対評価し、合計を「価値(CoD)」とします。

ポイント

  • スコアは 絶対値ではなく相対値 で十分
  • 完璧な精度よりも チームで議論する過程 が重要
  • 定量化できない要素(顧客満足など)もスコア化して扱える

Job Size(作業の大きさ)の考え方

「価値」を見積もったら、次に必要なのは その作業にどれくらいの大きさ(コスト)がかかるか です。 これを Job Size と呼びます。

Job Size の見積もり方法は、ストーリーポイントなど、チームが使い慣れた方法で構いません。

  • 小さいタスク → Job Size が低い(例:1〜3 ポイント)
  • 大きいタスク → Job Size が高い(例:8〜13 ポイント)

👉 つまり Job Size は「必要な投資量」を示します。 CoD と Job Size の比率をとることで、ROI 的な優先順位が導けるわけです。

計算例

  • PBI A
    • ユーザービジネス価値:8
    • タイムクリティカル性:5
    • リスク削減/機会創出:3 → CoD = 16
    • Job Size = 4 → WSJF = 16 ÷ 4 = 4.0
  • PBI B
    • ユーザービジネス価値:5
    • タイムクリティカル性:9
    • リスク削減/機会創出:2 → CoD = 16
    • Job Size = 8 → WSJF = 16 ÷ 8 = 2.0

👉 この場合、PBI A の方がスコアが高く、優先順位も上になります。

WSJF のポイントまとめ

  • 価値(CoD) は「ユーザービジネス価値+緊急度+リスク削減/機会創出」で算出する
  • Job Size はストーリーポイントなどで相対的に見積もる
  • 式は WSJF = CoD ÷ Job Size
  • 絶対値の正確さよりも、相対的な比較と議論の過程 が重要
  • 数字は目安であり、最終的にはチームや PO の判断と組み合わせる

3.4 象限マトリクス ― 直感的に ROI を整理する

三つ目の手法が 象限マトリクス です。 これは「価値」と「コスト」の二軸を使って、PBI を 4 つの象限に分類します。

各象限の意味

実践イメージ

ホワイトボードに象限を描き、PBI を書いた付箋を貼っていきます。 「この PBI は価値が高い?低い?」「コストはどうだろう?」と議論しながら、自然と優先順位が見えてきます。

👉 数値ではなく、直感で整理できるのが強みです。

3.5 WSJF と象限マトリクスの比較

ここで、WSJF と象限マトリクスを比べてみましょう。

  • 共通点:どちらも「価値」と「コスト」を軸に考える
  • 違い
    • WSJF → 数値で ROI を算出(論理的で説得力がある)
    • 象限マトリクス → ROI を直感で見える化(議論しやすい)

レストランに例えると

  • 象限マトリクス → メニューを見て直感で「これ美味しそう」と決める
  • WSJF → 価格と量を比べて「コスパがいい方にしよう」と決める

👉 どちらが優れているというより、状況によって使い分けるのが賢いのです。

3.6 本章のまとめ

  • MoSCoW 法 → シンプルで合意形成に便利。ただし Must が多すぎないよう注意。
  • WSJF → 数値で ROI を算出でき、説得力がある。ただし見積り精度に依存。
  • 象限マトリクス → 視覚的・直感的に整理でき、議論に向いている。

これらの手法はすべて「ROI を最大化する」ためのツールです。 プロダクトオーナーは、状況に応じて道具を選び、チームと共に優先順位を決めていきます。

👉 次章では、ROI の枠組みだけでは測れない「顧客の感情」に目を向けます。 ここで登場するのが 狩野モデル です。

第 4 章  ROI の限界と 狩野モデル

4.1 ROI では測れないものがある

ここまで、MoSCoW 法・WSJF・象限マトリクスといった ROI をベースにした優先順位付け手法を紹介してきました。 ROI は「投資したものに対して、どれだけのリターンがあるか」を示すシンプルで強力な考え方です。

しかし、ここで立ち止まって考えてみましょう。 👉 ROI だけで、顧客は本当に満足するのでしょうか?

4.2 ホテルでの体験から考える

たとえば、あなたがホテルに泊まったとします。 清潔なベッド、タオル、歯ブラシ――これは「当たり前にあってほしい」ものです。 無ければ強い不満につながりますが、あったからといって感動する人は少ないでしょう。

次に、部屋の広さや Wi-Fi の速度。 これは「数値的に性能が上がるほど快適になる」要素です。広ければ広いほど、速ければ速いほど満足度が上がります。

では、部屋から見える夜景はどうでしょうか? あると「わぁ!」と感動します。でも、無かったとしても「まあ、そういう部屋だった」と納得できるはずです。

この「感動の要素」は、ROI の計算には表れにくいのです。 なぜなら「夜景があることでどれだけ追加の収益が出るか」を正確に数値化するのは難しいからです。

4.3 ROI の冷徹さとその限界

前章で紹介した「ゲームのバグ放置」の話を思い出してください。 ROI が無ければ、ユーザーが不便に思っても直されない。これは合理的ですが、顧客の不満や離脱につながるリスクもあります。

ROI の強みは「数字で冷徹に判断できること」ですが、裏を返せば「数字に表れない価値を見落とす危険」もあるのです。

4.4 ROI を超える視点 ― 狩野モデル

そこで登場するのが 狩野モデルです。

狩野モデルは、「機能があるとき」と「ないとき」の顧客の感情を切り口にして、機能を分類する考え方です。 ROI のように効率やリターンではなく、顧客がどう感じるかを基準にしています。

これにより、ROI では拾えなかった「感動」や「差別化のポイント」を見える化できるのです。

4.5 本章のまとめ

  • ROI は強力な基準だが、数字に表れない価値を見落としやすい
  • ホテルの夜景やサプライズケーキのように「感動を与える要素」は ROI では測りにくい
  • ROI に頼りすぎると、ユーザーの満足度やロイヤルティを削ぐリスクがある
  • そこで登場するのが 狩野モデル。ROI を補完し、顧客の感情を捉えるレンズとなる

👉 次章では、この 狩野モデルを詳しく解説します。 「2 つの質問」からはじまり、MPEIRQ という 6つの分類を通して、どのように顧客価値を捉えるのかを学んでいきましょう。

第 5 章  狩野モデルの詳細

5.1 狩野モデルは 2 つの質問から始まる

狩野モデルの出発点は、とてもシンプルです。 顧客に対して、ある機能について 2 つの質問をするだけです。

  1. その機能があったら、どう感じますか?
  2. その機能がなかったら、どう感じますか?

この「あるとき」と「ないとき」の組み合わせから、顧客がその機能をどのように評価しているかが見えてきます。

質問はさらに 5 段階の回答で整理します。

  1. とても嬉しい
  2. それって普通でしょ
  3. 特になんとも思わない
  4. 別にそれでも構わない
  5. それは困る

この 2 つの質問 × 5 段階の答えを組み合わせると、機能は 5 種類に分類されるのです。 これらの回答を25 通りの回答をマトリクスで分類するとこのようになります。

このマトリクスにより、顧客がその機能をどのように捉えているかが視覚的に整理されます。

5.2 狩野モデルの 6 分類

狩野モデルで導かれるのは、次の 6 つのカテゴリです。

M:Mandatory(基本品質)

  • あると → 「当たり前、安心」
  • ないと → 「不満!最低限が欠けている」
  • 例:ホテルなら「清潔なベッド、部屋の鍵、タオル」

L:Linear(期待品質)

  • あると → 「便利!性能が高いほど嬉しい」
  • ないと → 「不便、物足りない」
  • 例:ホテルなら「部屋の広さ、美味しい朝食、Wi-Fi の速さ、アメニティ」

E:Exciter(魅力品質/Delighter)

  • あると → 「わぁ!感動」
  • ないと → 「困らない」
  • 例:ホテルなら「オーシャンビュー、記念日ケーキ、ウェルカムドリンク」

I:Indifferent(無関心)

  • あると → 「ふーん」
  • ないと → 「気にならない」
  • 例:ホテルなら「客室に電話帳、珍しい家具」

R:Reverse(逆品質)

  • あると → 「不快、邪魔」
  • ないと → 「むしろ快適」
  • 例:ホテルなら「毎日のアンケート電話、奇抜すぎる装飾」

Q:Questionable(矛盾/無効回答)

  • 「あると嬉しい」「ないと嬉しい」といった 矛盾した回答 が出てしまった場合に分類されるカテゴリ
  • 分析の際には 無効回答として扱う ことが多い

ざっくりまとめると以下のように要約されます。

  1. Mandatory(基本品質) → 無いと不満
  2. Linear(期待品質) → 多いほど満足
  3. Exciter(魅力品質) → あれば感動
  4. Indifferent(無関心) → どちらでもよい
  5. Reverse(逆品質) → あると不満
  6. Questionable(矛盾回答) → 分類不能、除外扱い

5.3 ホテル事例での回答サンプル

実際に「あると/ないと」の質問に答えてみるとどうなるでしょうか。

  • 清潔なベッド
    • あると → 安心
    • ないと → 泊まれない 👉 Mandatory(基本品質)
  • 部屋の広さ
    • あると → 快適
    • ないと → 狭くて不満 👉 Linear(期待品質)
  • オーシャンビュー
    • あると → 感動!
    • ないと → 別に困らない 👉 Exciter(魅力品質)
  • 客室の電話帳
    • あると → まあどうでもいい
    • ないと → 別に気にしない 👉 Indifferent(無関心)
  • 毎日のアンケート電話
    • あると → うるさい!嫌だ
    • ないと → 快適 👉 Reverse(逆品質)

実際にホテルの事例をいれてみるとこのようになります。

このように PBI を分類していくことで、PBI の特性を知ることができるのです。

5.4 ROI と 狩野モデル の対比

ここで重要なのは、狩野モデルは ROI を否定するものではないということです。 ROI では捉えられない「顧客の感情」を補完するレンズ、それが 狩野モデルです。

  • ROI → 効率性、投資対効果
  • 狩野モデル → 感情、差別化要因

両方を組み合わせることで、短期的な成果と中長期的な顧客ロイヤルティの両立が可能になります。

5.5 本章のまとめ

  • 狩野モデルは「あると/ないと」の 2 つの質問から始まる
  • 回答の組み合わせにより、MPEIRQ の 6 分類が導かれる
  • ホテル事例で考えると直感的に理解しやすい
  • 5×5 マトリクスで顧客の感情を可視化できる
  • ROI と 狩野モデル は対立せず、補完し合う関係にある

👉 次章では、この ROI と 狩野モデル をどう組み合わせればよいのか、実際のプロダクトマネジメントにおける「両輪の使い方」を解説します。

第 6 章  ROI と 狩野モデル の両輪

6.1 ROI だけでは足りない、狩野モデル だけでも足りない

ここまで見てきたように、

  • ROI は短期的に効率よく成果を出すための強力な指標
  • 狩野モデル は顧客の感情や差別化を捉えるための有効なレンズ

でした。

しかし、ROI だけでは「数字に表れない価値」を取りこぼしてしまいます。 逆に 狩野モデル だけに頼ると、「顧客を驚かせる魅力品質」を追いかけすぎて、コスト倒れになるリスクもあります。

👉 だからこそ、プロダクトオーナーには 両方をバランスよく使う力 が求められるのです。

6.2 ROI が支える短期的な合理性

ROI 的な優先順位付けは、リソースが限られる状況での 即効性ある判断基準 です。 MoSCoW 法、WSJF、象限マトリクスといった手法を使えば、「今どれをやるべきか」をチーム全員で納得しやすくなります。

これはまるで、毎月の家計を管理するようなものです。 「今月は食費を抑えてでも、子どもの教育費に投資しよう」 こうした判断が積み重なることで、家計は健全に回っていきます。

プロダクトでも同じ。ROI は「資源を食い潰さずに成果を出す」ための土台です。

6.3 狩野モデル が支える中長期的な差別化

一方で、狩野モデルが扱うのは 顧客の感情 です。 顧客が「当たり前」と思う品質を外せば不満につながり、 「期待どおり」の品質を磨けば満足度が上がります。 そして「魅力品質」を提供すれば、ファン化や口コミにつながります。

これは短期的な ROI には見えにくいけれど、中長期的には競合との差別化やブランド価値につながる部分です。

例えばスマホの「顔認証」機能。 最初に登場したときは Exciter(魅力品質)でしたが、いまや Mandatory(基本品質)になっています。 狩野モデル の視点があれば、こうした「顧客価値の変化」をいち早く捉えられます。

6.4 ROI と 狩野モデル をどう組み合わせるか?

ここで大事なのは、ROI と 狩野モデル を「どちらか」ではなく「両輪」として扱うことです。

  1. 短期の判断は ROI で行う
    • チームのリソース配分や、次のスプリントで何をやるかの意思決定は ROI で最適化する
  2. 中長期の差別化は 狩野モデル で考える
    • プロダクトの戦略や、競合との差別化を考えるときは 狩野モデル で「顧客が感動する要素」を見つけ出す
  3. 両者を往復する
    • ROI だけでは数字に縛られ、狩野モデル だけでは夢物語になりがち
    • 両方を行き来しながら「効率性」と「感情価値」のバランスを取る

6.5 まとめ

プロダクト開発は、片輪だけでは前に進みません。

  • ROI → 短期的な成果と効率
  • 狩野モデル → 中長期的な差別化と顧客ロイヤルティ

両方を活かしてこそ、プロダクトは持続的に成長します。

プロダクトオーナーの役割とは、単にバックログを管理することではなく、 👉 ROI と 狩野モデル という 2 つのレンズで未来を見据え、プロダクトを成功に導くこと なのです。

6.6 本章のまとめ

  • ROI と 狩野モデル は対立する概念ではなく、補完関係にある
  • ROI は短期的な合理性、狩野モデル は中長期的な差別化を担う
  • 両輪をバランスよく使うことが、プロダクトオーナーの真の役割である

👉 次章では、ここまで学んだ内容を振り返りながら、日々の現場でどう実践していくかをまとめます。

第 7 章 まとめと実践へのヒント

7.1 これまでの振り返り

本書を通じて私たちは、プロダクトオーナーの役割と PBI の優先順位付けについて探ってきました。 出発点はシンプルな問いかけでした。

「プロダクトオーナーの最も大事な役割は何でしょうか?」

答えは、ROI を最大化し、プロダクトの価値を最大化することでした。 バックログを書くことやステークホルダー調整は大切ですが、それは目的ではなく手段に過ぎません。

7.2 ROI 的アプローチの意義

ROI を軸にした優先順位付けは、限られたリソースを最大限に活かすための必須スキルです。

  • MoSCoW 法 → シンプルに必須・任意を仕分ける
  • WSJF → 価値 ÷ コストで数値化して説得力を持たせる
  • 象限マトリクス → 直感的に議論を整理する

どれも「投資対効果」を意識するための道具であり、チームに合理的な判断をもたらします。

7.3 ROI の限界と 狩野モデルの補完

しかし、ROI だけでは顧客の感情を捉えきれません。 そこで登場するのが 狩野モデル です。

  • Mandatory(基本品質) → 無いと致命的
  • Linear(期待品質) → 数値的に性能が上がるほど満足
  • Exciter(魅力品質) → あれば感動、無くても困らない
  • Indifferent(無関心) → あってもなくても影響なし
  • Reverse(逆品質) → あると逆に不満
  • Questionable(矛盾回答) → 分類不能、除外扱い

ROI では測れない「感動」や「差別化の要素」を見える化することで、長期的なファン作りに貢献します。

7.4 ROI と 狩野モデル ― 両輪で進む

プロダクト開発は片輪走行では前に進めません。

  • ROI は短期的な効率と成果
  • 狩野モデル は中長期的な差別化とロイヤルティ

両方を組み合わせることで、初めて持続的に成長するプロダクトが生まれます。

プロダクトオーナーの真の役割とは、ROI の冷徹な視点と、狩野モデル の人間的な視点をバランスさせることです。

7.5 明日からの実践ヒント

では、明日から現場でどう活かせるでしょうか?

  • 次のバックログリファインメントで、PBI を象限マトリクスに貼って議論してみる
  • WSJF でスコアリングし、数値で優先順位を説明してみる
  • 狩野モデルを使って「顧客にとってこれは基本?期待?魅力?」と問いかける
  • 会議の最後に「これは ROI の視点?それとも 狩野モデル の視点?」と確認する

こうした小さな実践が、やがてチーム全体の思考の枠組みを変えていきます。

7.6 本書のまとめ

  • プロダクトオーナーの最大の役割は、ROI を最大化し価値を届けること
  • 優先順位付けは「経営判断」であり、合理的な意思決定を支える
  • ROI 的手法(MoSCoW・WSJF・象限)と 狩野モデルを使い分けることで、効率と感情価値を両立できる
  • 両輪をバランスよく回すことが、プロダクトを成功へと導く鍵である

あとがき

本書を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

プロダクトオーナーの役割は多岐にわたります。 ステークホルダーとの調整、バックログの管理、チームとのコミュニケーション……。 その中でも「優先順位をどう決めるか」は、最も重要であり、最も難しい課題のひとつです。

私はこのテーマを取り上げるにあたり、「優先順位付けは単なる順番決めではなく、経営判断そのものである」ということを改めて強調したいと思いました。 ROI という冷徹なレンズと、狩野モデルという人間的なレンズ。 その両方をバランスよく使うことで、はじめてプロダクトは持続的に成長できるのです。

最後に。 プロダクトオーナーの仕事は孤独に見えることがあります。 しかし、優先順位付けは一人で抱え込むものではなく、チームや顧客と一緒に考えるものです。 本書が、その対話のきっかけや共通言語となることを願ってやみません。

あなたが次にバックログを前にしたとき、 この本で紹介した視点を思い出してくれることを期待しています。

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